インターネットの片隅から生まれ、いまも正体を明かさないまま活動を続けるポップグループがいる。その名も「さよならポニーテール」、通称「さよポニ」。ライブは一度も行わず、メンバーの顔も本名も一切公表しない。それでいて、聴く人の心にすっと入り込む透明感のあるメロディで、長くファンを惹きつけてきた不思議な存在だ。今回はこのグループの成り立ちと魅力、そして入門におすすめの楽曲を紹介したい。

覆面ユニットという生き方

さよならポニーテールの最大の特徴は、活動の実態がほとんど公開されていないことだろう。メンバーは女性ボーカル5人(みぃな、あゆみん、なっちゃん、ゆゆ、しゅか)を中心に、ソングライターやサポートメンバーを加えた総勢12人ほどで構成されているとされるが、誰一人として顔を出したことがない。ビジュアルはすべて漫画風のイラストで表現され、その中には実在しない架空のメンバーも紛れ込んでいるという徹底ぶりだ。

ミュージックビデオでは実写の少女がリップシンクをすることもあるが、それも本人ではない。SNSと楽曲配信を中心とした活動に徹し、ステージに立つ姿を見せることは今日まで一度もない。まるでボーカロイドのキャラクターのように、「声」と「イラスト」だけが独立して存在しているような感覚を覚えるのも、このグループならではの体験だ。

2011年、静かな始まり

さよポニは2011年4月、自主レーベル「音楽と魔法」から1stアルバム『モミュの木の向こう側』を発表してスタートした。その後、レコードショップ限定のEPリリースなどを重ねてじわじわと知名度を広げ、同年10月にはメジャーデビューアルバム『魔法のメロディ』をリリース。同時に漫画作品『きみのことば』も発表し、音楽と漫画という二つの表現を軸にした独自の活動スタイルを築いていく。

以降、メンバーの入れ替わりを経験しながらも歩みを止めず、2019年11月には結成10周年を記念した初のベストアルバム『ROM』を発表。そこからも『君は僕の宇宙』『来るべき世界』『きまぐれファンロード』『銀河』『夜の出来事』『You & I』など、コンスタントに作品を送り出し続けている。

「放課後てれぽ~と」、あの校舎にもう一度戻れる魔法のような曲

紹介したいのは、2017年6月7日にリリースされた4thフルアルバム『夢みる惑星』のリード曲「放課後てれぽ~と」です。「学校の放課後にテレポートする」という設定。タイトルから察しがつく通り、このMVは「学校の放課後にテレポートする」という設定で撮影されており、聴く人(見る人)を過去の記憶——あの誰もが経験した「放課後」に連れ戻してくれるような一曲になっています。

MVには女子生徒役としてアイドルネッサンスの野本ゆめか、川崎純情小町の宮内桃子、そして角川詩織の3人が出演。さよポニ自身は姿を見せない覆面グループですが、こうして実写の“生徒たち”がMVの中で曲の世界観を体現してくれるのが面白いところです。

さらに特筆すべきは、このMVが360°動画として制作されている点。教室や理科室、体育館など、さまざまなシチュエーションで彼女たちと一緒に放課後を過ごしているような気分を味わえる作りになっていて、VR対応のプラットフォームで視聴すると、まるで自分もあの校舎に「てれぽ~と」したかのような没入感があります。

制作陣にも注目

振付はいづみれいなさん、監督は須藤中也(maruda)さんが手掛けています。ダンスの振り、カメラワーク、どちらも「懐かしさ」と「浮遊感」を両立させたつくりで、さよポニらしいポップさの中に、ちょっとしたセンチメンタルさが漂う仕上がりになっています。

なぜ「放課後」なのか

さよポニの楽曲は、青春・学生時代をモチーフにしたものが多いのが特徴です。当時の記事によれば”神さま”不在のシーズン3としてSF色を強め、ループする世界を描いた作品が『夢みる惑星』だったとのことで、「放課後てれぽ~と」というタイトルにも、時間や場所を超えて何度でも戻れる青春への憧れが込められているように感じます。

「放課後」というだけで誰もが少し切なくなる、あの空気感。さよポニはそれを、覆面グループという特殊な立ち位置だからこそ、リスナー自身の記憶に重ねやすい形で届けてくれているのだと思います。まだ聴いたことがない方は、ぜひ360°MVをVR対応の環境で体験してみてください。普通に見るのとはまったく違う「放課後」がそこにあります。

なぜこれほど心をつかむのか

顔もライブも見せないグループが、なぜここまで長く愛されているのか。理由のひとつは、楽曲そのものの完成度の高さにある。どこか懐かしいのに古びない、耳に残るメロディライン。切なさと甘さが同居する歌詞。そして正体不明であるがゆえに、リスナーはイラストや曲だけを手がかりに、自分の中で自由に世界観を膨らませることができる。

顔を出さないアーティストは他にも存在するが、さよポニの場合は「素性を隠す」こと自体がコンセプトとして完成されている点が独特だ。情報が少ないからこそ、一曲一曲、一枚一枚のアルバムジャケットに込められた小さな手がかりを探す楽しみが生まれる。ファンの間で「考察」が活発に行われてきたのも、このミステリアスな設計があってこそだろう。

おすすめのアルバム

これから聴き始めるなら、2018年リリースのアルバム『君は僕の宇宙』がおすすめだ。さよポニらしい甘さと切なさ、青春の空気感がバランスよく詰め込まれており、グループの魅力を一枚でつかみやすい。過去の名曲「遠い日の花火」のような定番曲も収録されており、初めて聴く人にも親しみやすい構成になっている。

もっと気軽に触れてみたいという人は、まず代表曲をいくつかストリーミングで聴いてみるのもいいだろう。透明感のある歌声と、どこか懐かしいのに新しいサウンドに、きっと引き込まれるはずだ。

さよならポニーテール

情報があふれる時代に、あえて「見せない」ことを貫くグループの存在は、それだけで一種の贅沢な体験を提供してくれる。さよならポニーテールの音楽は、顔や名前を知らなくても、いや知らないからこそ、まっすぐに届いてくる。まだ聴いたことがない人は、ぜひ一度、その不思議な世界に足を踏み入れてみてほしい。